はじめに |
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初当選した地方議会の議員が予算書を見せられた場合,その予算書を読み解ける者は稀であると思います。むしろ,日常なれ親しんでいる金額と違う数字の桁数の多さに圧倒されて,全体の構造がどのようになっているか見当もつかないというのが実態ではないでしょうか。年間予算が100億円以下の町村でも,聞きなれない予算用語が出てくるばかりでなく,経費や収入の関連がややこしくて,とても予算書を気楽に読む気分にはなれないでしょう。 予算書と決算書を取り付きにくくしている要因は,二つあります。その一つは,予算と決算の専門用語です。これに対しては,機会あるたびに予算書を開いて,なれ親しむ以外に方法がありません。税の使途を納税者が統制するためには,支出と収入を分類して財政分析ができるようにしなければならないために,専門用語はどうしても必要だからです。政治体制が違っても,税の使途を統制する必要が全くなくなることはないので,支出や収入の分類は必要で不可欠なのです。もう一つは,支出と収入の関連ですが,一部の数値を動かすと,他の部分に連鎖反応を起こすことです。そのほかに,一般会計,特別会計,公営企業会計などの会計間の金銭の出入りだけでなく,一般財源と特定財源,当初予算と補正予算,予算の流用と決算など,金銭の出入りの関係を的確に把握するのは誰にとっても容易ではありません。予算の規模が小さけれぼ,予算全体を掌握することが比較的に容易でも,兆を超える予算ともなれば,もはや個人で予算の全容を把捉することは不可能となりましょう。しかし,これらの要因があるとしても,住民代表としての議員は,予算書と決算書の解明に乗り出さなければならないと覚悟しなければなりません。 地方の時代が提唱されて以来,既に30年以上の歳月が経っており,現在では「三位一体の改革」が提唱されていますが,未だに地方の時代が到来しているようには思われません。その理由は,地方公共団体は二権分立(三権分立の立法・行政,司法のうちの司法部門がない)となっており,行政部門は企画立案能力においてそれなりの進展を示しているのに対して,二権の一方である議会が旧態依然としていて,議決機関としての機能を充分に果していないためであると思われます。この認識に立って,執行機関の首長と立法機関の地方議会が実質的に抑制均衡の関係に立てるようにする最善の方法は,地方議会の議員が予算書と決算書を読解できるようにすることであるというのが,本書を執筆した動機です。具体的には,国民主権の下における議員の選挙公約ないしマフエストと予算の関係を明らかにし・予算蓄の構造を解剖することによって,地方議会の議員が首長が原案作成権を有している予算を修正できる能力を身に付けられるようにすることが本書の目的です。 予算書と決算書は,一見したところでは,取り付きにくい代物ですが,読み解く方法を修得しさえすれば,予算書と決算書ほど行政に関する情報が凝縮されている文書はほかにはありません。地方議会の議場において実のある議論を展開するには,どうしても予算育と決算書を読解しなければならないのですが,そのための努力は必ず報いられましょう。地方議会において税の使途を中心とした論議ができなければ,議会の存在理由は半減するでしょうし,いつまで経つても地方自治は実現できませんし,押し寄せる少子高齢化社会に対応することもできないに相違ありません。 本書における予算と決算に関する説明は,詳し過ぎると思われるかも知れません。しかし・行政部門の手法を熟知していなければ,行政部門に対抗して議決機関としての実質的権能を確保できないという立場から,できるだけ詳細に予算と決算の制度や行政部門の問題点を取り上げるようにしました。本書の狙いは,二権分立の下では政治(地方議会)が行政(首長をトップとする執行機関)をリードすることを期待されているのですから,地方議会の議員が予算審議や決算審査に臨んで自信をもって発言できるようにすることであり,ひいては議員が地域社会の発展のために主導的な役割を果たせるようにすることです。そのためには,議員自らが選挙民の期待に応えられるように,日常活動に精励するとともに,予算書の解読にも努力することが必要なのです。 予算書や決算書と同様に,本書も簡単には理解できないかも知れません。しかし,本書を楽々と読破できるくらいでなけれぼ,地方議会の予算審議や決算審査の能力は向上しないのではないかと思います。そこで,お勧めしたいのは,最初から読んで強いて記憶しようとせずに,まず目次や索引を眺めて,地方議会で話題となっでいる事項に関するところを拾い出し,そこを読んでみることです。そうすれば,興味をもって読めると思われますし,一旦興味が湧けば,その興味をたどって読み進めばよいわけです。 本書の最終日標は,予算書と決算書の解読を通じて,議会の政策立案能力を向上させて二権分立を実質的に機能するようにさせ,その成果として住民自治を名実ともに実現することなのです。 2004年3月 |
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目 次 |
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